女優・中谷美紀が女優の傍ら歌っていた時代があることを知っている人はどれくだいいるのだろう。年代的にアラサー前後くらいまでは記憶に残っているのかな。
かつては桜っ子クラブ、KEY WEST CLUBというグループでアイドル活動をしていた時期もあることは案外知られていない事実(桜っ子クラブには菅野美穂もいたらしい)。
そんなグループでのアイドル活動を経て、女優業の傍ら坂本龍一のプロデュース(!!)のもとソロ名義で再度歌手デビューを果たし、20歳から約5年ほど歌手と女優二足のわらじを履いていた時期があったが、そんな時期も今は昔、もう20年近く前の話。
当時から歌手としての活動は緩やかだったようだけど、ベストアルバム『MIKI』を2001年にリリースしたのを最後に15年以上歌手としての目立った活動はなく、最近の彼女からは歌う印象すらない。
しかしソロ活動期間の作品は非常に良質で、よくある若手女優の歌手活動のようなアイドル然とした作品とは一線を画すアーティスティックな作品を数枚リリースしており、制作に携わっていたアーティストも坂本隆一をはじめ、大貫妙子、小西康陽、高野寛、売野雅勇、などなど、クレジットだけでもよだれモノの豪華な面子による強力なバックアップ。
私自身彼女の歌手活動を知ったのは今から大体5年くらい前。何がきっかけだか覚えてないけど気づけばレンタルしてむさぼるように聴いていたのがアルバム『食物連鎖』と『Cure』。完全なる後追いで発売当時のことなど何も分からないけど、そんなことどうでも良くなるくらいセンセーショナルな出会いでした。
さて、前置きはここまで。
今回は中谷美紀名義で出したオリジナルアルバム3枚とリミックス盤1枚、計4枚の曲について、シングルカットされた曲は散々言及されているので、アルバム曲を中心にレビュー…というには薄っぺらい文章を適当に書いていこうと思います。歌詞についても触れたい部分は山ほどあるけどめちゃめちゃ長くなるので今回は音像・音色やアルバムの情報、小ネタなどと感想を交えて書きます。気になったら曲のタイトルでググってください。大体どの曲の歌詞も出てくるでしょう。
今回は中谷美紀名義で出したオリジナルアルバム3枚とリミックス盤1枚、計4枚の曲について、シングルカットされた曲は散々言及されているので、アルバム曲を中心にレビュー…というには薄っぺらい文章を適当に書いていこうと思います。歌詞についても触れたい部分は山ほどあるけどめちゃめちゃ長くなるので今回は音像・音色やアルバムの情報、小ネタなどと感想を交えて書きます。気になったら曲のタイトルでググってください。大体どの曲の歌詞も出てくるでしょう。
◆食物連鎖
1.MIND CIRCUS
2.STRANGE PARADISE(Pradise Mix)
3.逢いびきの森で
4.汚れた脚 The Silence of innocence
5.my best of love
6.WHERE THE RIVER FLOWS
7.TATTO
8.色彩の中へ
9.LUNER FEVER
10.sorriso escuro
9.LUNER FEVER
10.sorriso escuro
坂本隆一プロデュースの元、1996年に満を持してリリースされた1stアルバム。
坂本隆一の他にも大貫妙子、小西康陽、果てはアート・リンゼイまでアルバムに関わっているとなれば当時の音楽好きは黙ってない。シングルは「Mind Circus」と「Strange Paradise」の2曲。原曲とさほど違いがないリミックスで収録。作詞は売野雅勇が中心。3枚出したアルバムの中で1番ポップで明るいアルバム。
90年代らしいJ-POPをベースに、テクノ時々ジャズ、ボサノバなど異ジャンルの匂いが混ざりつつ、当時20歳前後の若手女優のアルバムにしてはだいぶ落ち着いた仕上がり。ボーカルは中谷美紀独特のミステリアスな雰囲気がこの時すでに備わっているものの、どこか幼さが漂う真っすぐな歌い方。なんというか無垢。
年相応のフレッシュさが感じられるシングルの「Mind Circus」と「Strange Paradise」の2曲はやはりアルバム通してもインパクトが強く、特に「Mind Circus」のようなド頭から耳を持ってかれるようなキャッチーさのある曲は歌手・中谷美紀の活動においてこの曲以降出てきません笑 デビュー時がピークの明るさです。他にアルバム中でも異彩を放っているのが小西康晴作詞・作曲の「逢いびきの森で」。中島美嘉の「Love Addict」のようなアシッドジャズ風味(「Love Addict」のような官能的な妖しさはないけど)。
そして歌詞。売野雅勇の意味深で耽美な詞も歌手・中谷美紀の肝。一歩間違えると中二病みたいな歌詞も中谷美紀はしっかり自分のものにしていて、ミステリアスで危うい独特の世界観における重要な役割を果たしている。あと「TATOO」の作詞は本作唯一中谷美紀によるものです。彼女も売野雅勇に負けず劣らず意味深な歌詞を書くよね。 (褒)
そして歌詞。売野雅勇の意味深で耽美な詞も歌手・中谷美紀の肝。一歩間違えると中二病みたいな歌詞も中谷美紀はしっかり自分のものにしていて、ミステリアスで危うい独特の世界観における重要な役割を果たしている。あと「TATOO」の作詞は本作唯一中谷美紀によるものです。彼女も売野雅勇に負けず劣らず意味深な歌詞を書くよね。 (褒)
Disc1
1.いばらの冠 [Album version]
2.天国より野蛮
3.砂の果実
4.水族館の夜
5.鳥籠の宇宙
6.Superstar
7.キノフロニカ
8.corpo e alma
Disc2
1.Aromascape
2.Aromascape - no piano mix
中谷美紀の意思も盛り込んで作られたらしい1997年リリースの2ndアルバム。2枚組。
作詞は本作も売野雅勇中心で「鳥籠の宇宙」のみ中谷美紀の作詞。シングルは「いばらの冠」「天国より野蛮」「砂の果実」の3曲。ちなみに、本作には元スカパラのドラムで今は亡き青木達之のクレジットがあります。生音が使われている数曲に参加していたようです。
で、このジャケット。真っ黒。CDを手に取ってみると帯に当たる位置に中谷美紀が映っているんだけど帯を取ると真っ黒。つまり何が言いたいかというと中身も暗い。1stが1番明るいと先にも書きましたが、1stの明るいポップな部分をそぎ落とした、全体的にダウナーで陰があるアルバム。
ボーカルも前作からほぼ1年しか経っていないのに前作のような幼さはなくなり、落ち着いた抑揚が美しい大人のボーカルへと進化たような印象を受ける。本作ではどこか冷めたようなさらっとした歌い方をしている。坂本隆一指示の元、作品に合った歌い方をしていたのかもしれない。
Disc1は普通にフルアルバム。本編という捉え方でいいと思う。松本隆作詞の優しく美しい詞が映える「水族館の夜」は珍しく打ち込みの音が見たらないバンドサウンド。暗いを通り越して陰鬱としていて重々しい「Superstar」は原曲の雰囲気をぶっ壊したカーペンターズのカバー。ノイズがかったボーカルがけだるさ不穏さに拍車をかけてドン底まで堕ちたような気分に。
”暗くてドラマティックな乗れるハウス”(だと私は思ってる)という一見相反する要素が共存している「キノフロニカ」は、中では踊れるドンシャリしたBPM早めのハウスポップ。アルバム最後の「Corpo e alma」は大貫妙子作詞の浮遊感あるサンバ調。アルバム唯一明るいとも言えるこの曲も、詞とボーカル独特の儚さで底抜けに明るくないところがとても”らしい”。この曲があるおかげで最後に少しだけ気持ちが晴れる。
Disc1は普通にフルアルバム。本編という捉え方でいいと思う。松本隆作詞の優しく美しい詞が映える「水族館の夜」は珍しく打ち込みの音が見たらないバンドサウンド。暗いを通り越して陰鬱としていて重々しい「Superstar」は原曲の雰囲気をぶっ壊したカーペンターズのカバー。ノイズがかったボーカルがけだるさ不穏さに拍車をかけてドン底まで堕ちたような気分に。
”暗くてドラマティックな乗れるハウス”(だと私は思ってる)という一見相反する要素が共存している「キノフロニカ」は、中では踊れるドンシャリしたBPM早めのハウスポップ。アルバム最後の「Corpo e alma」は大貫妙子作詞の浮遊感あるサンバ調。アルバム唯一明るいとも言えるこの曲も、詞とボーカル独特の儚さで底抜けに明るくないところがとても”らしい”。この曲があるおかげで最後に少しだけ気持ちが晴れる。
暗い、陰がある。でも時々垣間見える優しさと最後に見せるほんの少しの明るさ。長い長いトンネルを抜けたような感覚。ダークサイド中谷美紀とても良い。
Disc2はよく眠れそうな癒しのアンビエント「Aromascape」と「Aromascape-No Piano Mix」を収録。30分超えの大作で、当たり前ながら2曲ともボーカル無し。確かな情報ではないけど、このDisc2自体が中谷美紀発案によるもので、テーマは”癒し”なのだとか。実質ボーナスディスクかと思っていたけど作品としてのコアはこちらにあるのかもしれない。全編ダウナーな調子のDisc1で気が滅入ったらDisc2を聴けということなのだろうか。
ちなみに、多分この「Aromascape」というタイトルにちなんで、アルバム発売当時”オリジナルブレンドエッセンシャルオイル「release」&アロマランプを抽選でプレゼント”なんていう特典施策をしていたらしい。洒落てるな~~
◆私生活
1.フロンティア [Album Version]
2.雨だれ
3.temptation
4.Confession
5.クロニック・ラヴ [Remix Version]
6.Spontaneous
2.雨だれ
3.temptation
4.Confession
5.クロニック・ラヴ [Remix Version]
6.Spontaneous
7.夏に恋する女たち
8.Automatic Writing
9.フェティシュ(Fetish) [Folk Mix]
9.フェティシュ(Fetish) [Folk Mix]
10.Leave me alone...
11.promise
12.all this time
13.temptation [Drum Mix]
11.promise
12.all this time
13.temptation [Drum Mix]
坂本隆一と共にワーナーへ移籍し、前作から約2年ぶりの1999年にリリースされた3rdアルバム。
カバーアルバムというコンセプトでのリリースだったという話も散見されるものの、現代では定かな情報は確認できず。カバーというより原曲から大きく姿を変えたリメイクが多く、そこにオリジナルも混じっている感じです。いずれもリミックスで収録のシングル曲は「フロンティア」と「クロニック・ラブ」。本作は作曲に坂本隆一以外に半野喜弘と竹村延和も参加。リメイク曲以外の作詞はほとんど中谷美紀。
エレクトロニカ・アンビエント色が強く出た本作。少し不気味なほど無機質でぬくもりを感じない、でも美しいアルバム。例えるなら、窓のない真っ白な部屋で私生活を演じなさいとでも言われたような、生活感が全くない私生活。潔癖な空間に幽閉されてるような感覚。
些細な衝撃で消えてなくなりそうな繊細で透明感あふれるボーカルがとても美しい。(かつて中田ヤスタカがPerfumeに指示したように)できるだけ感情を込めずに歌えという指示でもあったかのような、そんな印象。また前作とは違う歌い方。曲がボーカルを強調するように作られているのか、息遣いもしっかりと拾うような調整がされているのか、専門的なことは私にはよく分からないが、前作よりボーカルが近くに感じる。
収録曲はアルバムミックスでの収録もあるとはいえ、ほとんどがアルバム発売当時発表済の曲。ほぼ1曲毎に挟まれるスキット的なインスト4曲を除くと本人歌唱の新曲は3曲のみで、その全てが、教授フィルタを通り原曲からだいぶ姿を変えたリメイク曲。非常に説明し辛いのだけど、メロディラインだけは一緒で歌詞も曲のアレンジも原曲とは程遠い曲もあるので、カバーでもなければオリジナルでもない…その間を行くリメイク曲が多数収録されているアルバムというのが一番近い気がする。
ピアノが絶妙に不穏さを彩る「Temptation」、本作に合った無機質なアレンジではあるものの心地よい浮遊感と、本作唯一人間らしさが垣間見える歌詞でホッとできる「夏に恋する女たち」は大貫妙子のカバー(前作までしかり、大貫妙子が関わる曲はアルバムのオアシスのような存在かも)。
神秘的で涼しげな「Promise」は、当時坂本隆一がパーソナリティを務めていたラジオ番組のコーナーで選ばれた優秀作品を曲にしたものらしい。全編英語の歌詞が結構デレてて直球でらしくないけど不思議と浮かない教授マジック。「フロンティア」の英語バージョン「all this time」は、打ち込みのドラムを省き原曲に用いられたアコギがメインで展開されるアコースティックなアレンジに。
その他「Confession」、「Automatic Writing」は半野喜弘作曲、「Spontaneous」、「Leave me alone...」は竹村延和の作曲で、この4曲は中谷美紀のセリフ練習や生活音をコラージュした曲。
ここで『私生活』というアルバムタイトルが生きてくるんですね。このコラージュした4曲がとても実験的。無機質で機械的。”生活音”をもってしても生活感が微塵も感じらず冷たい印象ばかりが後味として残るのが味わい深いところ。聴いていてヒリヒリするような、生活の1部が切り取られている感じもこのアルバムらしい。このインスト群が本作の冷たさ無機質の演出の肝だと思う。
アルバム全体的に、無機質さから来る得体のしれない背筋がゾクッとする危うさみたいなものが漂っていて、初めて聴いた時はその何とも言い難い不穏な雰囲気が苦手だったのだけど、聴きこむうちにいつしか怖さが薄れ(慣れ?)、優しさや美しさを感じるまでになるから不思議なものです。聴くほどに取り込まれるような感覚。個人的には前作『Cure』よりも癒しの要素が強い作品。
しかし、インストがアルバムの3分の1を占めるので、新しい歌唱曲が本当に少ない。この雰囲気でもう少し歌唱の新曲多めでアルバムを1枚作ってほしかった。
しかし、インストがアルバムの3分の1を占めるので、新しい歌唱曲が本当に少ない。この雰囲気でもう少し歌唱の新曲多めでアルバムを1枚作ってほしかった。
◆Vague
1.天国より野蛮 [DJ KRUSH mix]
2.いばらの冠 [Buffalo Daughter mix]
3.Superstar [Andrea Parker mix]
4.キノフロニカ [333DDT mix]
5.corpo e alma [Snooze mix]
6.天国より野蛮 [X-STATIC mix]
2.いばらの冠 [Buffalo Daughter mix]
3.Superstar [Andrea Parker mix]
4.キノフロニカ [333DDT mix]
5.corpo e alma [Snooze mix]
6.天国より野蛮 [X-STATIC mix]
7.Aromascape [DJ CAM RAINFOREST mix]
8.砂の果実 [larmes ameres]
1997年に発売された2ndアルバム『Cure』のリミックス盤。
『Cure』の2か月後くらいに発売された作品で、今度は真っ白なジャケ。おそらく中谷美紀本人は制作にほぼ関わっていないであろう作品だけど、DJ KRUSH、Buffalo Daughter、DJ Camなど、名だたるアーティストたちによるリミックス。どういう経緯でこの人選に至ったのかをうかがいたいところ。教授パワーかな。
曲ごとにいろんなジャンルのアーティストたちによる味付けが加り、ガラッと印象が変わった曲ばかりだけど、その傾向が顕著なのが「キノフロニカ [333DDT mix]」。いつ歌いはじめるのかと思っていたら歌なしのインストだった。たぶんキノフロニカですって言われないと最後まで気付かないであろう完全に別の曲。
「天国より野蛮 [DJ KRUSH mix]」なんかはもうヒップホップですし。太いビートがズンズンくるDJ KRUSHっぽいミックスです。「いばらの冠 [Buffalo Daughter mix]」は終始不吉な雰囲気で、曲の展開も、ボーカルを全く無視した曲作りが逆に清々しい。「Superstar [Andrea Parker mix]」は、ボーカルのリバーブを深めにかけ、テケテケした電子音が耳に残るテクノっぽいミックスに。
原曲のサンバ感をより強調し野性味あふれるミックスとなった 「corpo e alma r[Snooze mix]」は曲後半突然の転調が挟まれ、アコギ主体で展開されるボサノヴァ風?のゆったりぼんやりした蜃気楼みたいなパートが印象的。そして意図してか偶然か、サンバ感を継承するが如く続くのは「天国より野蛮 [X-STATIC mix]」。「corpo e alma [Snooze mix]」が陽なら、この曲は陰。原曲の雰囲気を踏襲しつつ乗れるハウス・テクノ+少しサンバのリズム。
癒しのアンビエントだった原曲の匂いを残しつつ、ヒップホップ・ジャズ要素を入れた「Aromascape [DJ CAM RAINFOREST mix]」は、原曲に無かったサックスがメインで渋カッコいい。”RAINFOREST mix”というタイトル通り、アフリカあたりの熱帯雨林の夜を思わせるようなミックス。1曲9分と長いけど原曲よりは長くない。
原曲の生音を一切排除して打ち込みで構成される「砂の果実 [larmes ameres]」は、不穏な空気感が漂いながら、Aメロのシャキシャキしたドラムンベースが小気味よいミックスに。
要するにこのリミックス盤めちゃくちゃ聴きごたえあるんです。最高。ネット上では本作に関しての情報も評判もほぼ見当たらないのが不思議なくらい。
以上CD4枚分。ここまでたどり着いた方ありがとうございます。
残念ながら2016年現在上記のアルバムは『食物連鎖』以外は廃盤ですが、現状どのアルバムもアマゾンなりブックオフなりでディグれば割と簡単に見つかります。中古だとめちゃめちゃ安く手に入る。申し訳なくなるほど安い。
あとベストを含めて『私生活』以外のアルバムがサブスクで配信されてたりもします。(AppleMusicとSpotifyは確認済)なぜ『私生活』だけ配信がないのかは謎ですが、先にも書いたように活動中にレーベルを移籍してる関係で権利関係上色々と難しいのでしょう。
ちなみにシングルにもアルバム未収録の曲も多々あり、これもおそらくアマゾンかなんかに頼れば手に入るでしょう。初期に出したシングルは懐かしの8センチシングルでのリリースです。
中谷美紀の透明感ある歌声と坂本隆一のテクノ仕込みのポップ、そこに売野雅勇の耽美で意味深な歌詞が乗ることで出来上がる絶妙なバランスの世界観。お試しあれ。